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ニュー善光寺さん 草木の巻
善光寺の境内をめぐるマップ、第二弾は草木の巻、植物編とした。日本の伝統建築は、木をはじめとする植物、土、石など多種多様な自然素材を用いながら固有の建築表現に結実されたもの、と説明される。専門家でなくとも、日本建築といえば木造だ、ていどの認識はあるし、茅葺の民家や檜皮葺の社寺に馴染みがある人も少なくないだろう。しかしながら、専門家であっても建材ではない植物一般についてとなると、途端に知識も記憶もあやふやだ。私たちはと言えば、はたして善光寺境内にどんな草木が植っているのか、と問われればしどろもどろになってしまうような有様であった。
ときに善光寺の樹木を診断する樹木医の先生や善光寺職員の方に同行してもらい、ときに図鑑を手にして、これは何、あれは何、と確かめながら、私たちは境内をとぼとぼと歩いた。5月、6月、8月、10月、11月。何度も歩いていると、ごくごく当たり前のことなのだが、草花、そして木々の様子が移り変わっていくのが分かる。「いつでも変わらない姿の善光寺」の周りを彩る草木は、刻々と変化をしているのだ。むしろ、この周期的な変化の様相こそが、善光寺に流れる悠久の時間を感じさせてくれるのかもしれない。
草木の巻は、石の巻と同じく、ただ植物を紹介するものではない。植物を通して、善光寺における日々の営みに、少し想いを巡らせながら、境内を歩き回ってもらうためのマップである。この、大きな大きな寺院建築に添える、小さな小さな建築的企図を私たちは「ニュー善光寺さん」と名付けている。マップのデザインと版画調に仕立てたイラストは、前回に続いて、SHIMA ART&DESIGN STUDIOの小島沙織さんと島田耕希さんによるものである。
ニュー善光寺さん 石の巻
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今の本堂とともに300年以上境内を見守り続けてきた古木。そのたたずまいに、はるかな時の流れを味わえます。
中国や朝鮮半島が原産で、日本では江戸時代に栽培が始まったとされるサンシュユ。赤い実は、疲労回復などの薬効があるそうです。
参道に沿って多く植るマサキ。強いツヤの葉を持っています。善光寺では毎朝、堂番が葉を採って洗い、それを住職が内々陣西寄りの十六善神の前に供えます。
甘さを含んだ葉は、蒸して乾かし煎じて茶にします。5月5日の花まつり(灌仏会)では、本堂前で小さなお釈迦さま像に甘茶をそそぎ、ご生誕を祝います。
将来の本堂の用材として植えられたと伝わる東公園のアカマツ。かわいいマツボックリが、未来の種を守ります。
強い香りと毒があり、魔除けの役割をもつとか。善光寺では、法要を執り仕切るお導師さまの祭壇に供えられています。