"TOMIOKA" 田村尚子 写真とインスタレーション
会期:2021年7月16日〜8月7日
作家:田村尚子
キュレーション・展示デザイン:ヴュッター公園+齋賀英二郎
主催:アンスティチュ・フランセ関西, "TOMIOKA"田村尚子写真展実行委員会(委員長 奥山理子)
展示デザイン協力・グラフィック・什器製作・撮影:wyes architects
Special Thanks:Stone Stewart, Yuki Kobayashi, Hayashi-kun, Tazz Nishihara, Kazumi Hashimoto
作品と建物をつなぐ展示デザイン
アンスティチュ・フランセ関西−京都(旧関西日仏学館)はオーギュスト・ペレの弟子であるレイモンド・メストラレが原案をつくり、木子七郎が実施設計を行なった歴史的建造物である。会場の3階サロンは、約21m×4mの東西に細長い平面で南側は広いテラスに面し、腰高から天井までの大きな開口部が並ぶ明るく開放的な場所だ。テラスからは大文字山を望むことができる。床は木質パーケット張り、壁と天井は白く塗装されていて、ホワイト・キューブの展示空間とはまったく異なる雰囲気を持っている。
展示は、パーティションで長さを12mほどに区切った空間を一体に使って構成した。作品はすべて、既存の壁からはなして、什器、天井、パーティションから支持をとることで、歴史的建造物と作品とが一体となった展示空間をつくることを意図した。鑑賞者は、縦長の窓が連続する既存建物の特徴をいかして展開される展示空間の全体像を感じながら、それぞれの作品に向き合って展示を鑑賞する。
什器は、作家のアトリエにあった57mmの厚みをもった木製フレームひとつひとつに合わせてデザインし製作した。軽量化した長方形の板を白に近いベージュで塗装し、直角に組み合わせて、作品をセットすると、立体的なオブジェクトとも見立てられるような形である。三角形に組んで視線よりわずかに低く作品をセットする什器と、少し見下ろして眺めるように傾斜をつけた什器は、会場の中で、鑑賞者がそれぞれの作品と相対するわずかなスペースを生み出した。
作家がインスタレーションに用いることにこだわったシルク生地は、床には届かない長さで、天井から吊り下げた。映像を透かしながら、風、空調や人の動きで生まれるわずかな気流によって、映像とともにゆっくりと揺らぐシルクの姿は、空間全体が柔らかく呼吸をしているかのような印象を与えた。
3つの映像作品のうち2つにはピンクと黄緑のカラー背景をつけた映像が流れる。映像は、シルク生地からはみ出したり、シルク生地にひっかかったりしている。シルク生地でコの字にかこった作品の中央には、1/200で出力した富岡製糸場の敷地を12個に分割し、田村が撮影したポイントをカメラ模型でプロットした。そして、入り口脇のパーティションには、大判の紙に出力した写真をカレンダー状に束ねて、カウンターチェアに腰掛けてめくりながら鑑賞する作品2つがかけられている。
田村が撮影した写真を、新たに構成したアンスティチュでの展示は、田村が、自身の足で歩き、カメラを構えて感じた時間を、鑑賞者が京都の地から想像することができるような体験を作り出した。