家がみる家の夢の話vol.2_01

家がみる家の夢の話 - vol.2 - in ミュンヘン

2023年春夏

共同:Hahn Wensch Architekten

写真:ハーン真依子(会場), wyes architects(家具)

このプロジェクトは、Hahn Wensch Architekten と wyes architects が共同で進めている。

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ミュンヘンのアパートを会場にして、いっさいの告知もなければ、誰も招かれることなく開かれた、極小の展覧会の記録である。

いまも目黒の家に静かに置かれている、赤坂の家から、家族と一緒に越してきた家具たち。一つひとつの家具が、いつ頃、どんなきっかけでこの家の一員となったのかは、すでに知る術がない。

私たちは、由緒の正しさを証明するのとは違うかたちで、家具の肖像を捉えるために、物言わぬ家具を、ひとつずつ図に起こして実測し、撮影して、それから、家具にまつわる思い出話を聞き取った。

実測図と写真は、国際郵便で東京からミュンヘンへと送り届けられた。額装された家具の肖像は、ミュンヘンのアパートを背景に写真におさまっている。もしかすると、なにか少しタイミングが違えば、この家具たちは、本当は今頃ミュンヘンにいたのかもしれない。目黒の家がみる夢には、そんな断片が、きっと紛れているに違いない。

「刀箪笥」って言ってたな。昔は刀を入れてたものかもしれない。仕舞いようがない、要らないものをこの中に突っ込んでたって感じで、あとは思い出も由来も何も知らないわ。玄関にあるって事は、赤坂の時も玄関入って右っ側にあったと思うんだけど…

民芸的だよね。これは座るためのものではないの?

いやぁ違うと思うけど。だって日本人て、椅子に座ってなかったじゃない。

ヨーロッパだったら、背もたれが付いてたら椅子になりそうな感じではあるよね。

そういう家具あるよね。収納もできます、みたいな。

家具01 | 刀箪笥

サイズ:W995×D324×H475
素材:木, 鉄
場所:玄関

なんかね、これは良い物らしいわね、弟が欲しがってたから。父が亡くなってからかな。弟がこの箪笥欲しいって言って。そしたらさっちゃんが「いまは困る」とか言って(笑)。ここの玄関にちょうどよいから、持ってかれちゃ困るとか言って。その後はうやむやになっちゃったんだけど。

赤坂の時も玄関入ったところにあったのよ。入って正面かな。応接間の入口のところにあったのかな。私たちは"朝鮮箪笥"って言ってたの。

雰囲気も良いですよね。何を入れたりしておくものなんですか?

引出しには、父が昔吸ってたホープっていう煙草が入ってたのは覚えてるわ。短くて、10本しか入ってない小っちゃい箱の。それとゴルフのピンとか?あと小銭とか、そういう物が入ってた記憶があるんだけど。

小さい頃、母の弟、私の叔父がピーピーしてて、金銭的に。だからよく引出しから私、煙草を出してプレゼントしてたの。煙草を買うのも大変そうだったから喜んでた(笑)。

あとは大きいところには何が入ってたのか全然覚えてない。

家具02 | 朝鮮箪笥

サイズ:W738×D396×H1164
素材:木, 真鍮
場所:玄関

これはもう古い古い古い古い…赤坂からのもので。私たちはいつも"キャビネット"って言ってたんだけど。母の部屋にあったのよ。

なんでここに食器なの?赤坂の時から?

分かんない。赤坂の時に何を入れてたかは分かんないわ。ほら、2階の台所に茶箪笥があったでしょ?入って左っ側のところに。それが今のキャビネットの位置にあったのよ。それから… えとなんか分かんなくなっちゃった…
あ、そうか茶箪笥は、おばあちゃんの部屋に持ってっちゃったのかな。それでそのキャビネットを買ったんだ、きっと。ね。おばあちゃんがウチに引っ越して来るっていうんで、部屋を建て増しして、きっとそれで茶箪笥はおばあちゃんのところに持って行って、だから茶箪笥気分で食器入れたのかもしれないし分かんない。

それでキャビネットから食器出して、炬燵でお茶飲むの?

ううん。そんな事しなかったね。

家具07 | キャビネット

サイズ:W1497×D421×H1452+220
素材:木, 真鍮, ガラス
場所:和室

赤坂の写真にのってたわよね。私たちは"四方棚"って言ってたのよ。でもなんか今だいぶガタがきちゃってて。

「しほうだな」ってどういう字?

「四(よん)」に四角形の「方(ほう)」の「棚(たな)」?だと思うんだけど。

四方が空いてるから?

分かんない。

棚板に、何か飾ったりするの?

いや、何か飾ってた記憶は、私はないわ。赤坂の時は10畳の、一番奥の部屋に置いてあったのよね。あとたぶんね、灰皿?かなんか入ってたの覚えてる。でもそれは目黒に来てからなのかどうなのかも分かんないし…
でも、この棚は重い物のっけてもすぐ壊れちゃう感じよね。

あんまり大っきい物を乗せるイメージじゃないですよね。

何置いてたの?一番奥の和室にあったんでしょ?そこは人に見せる部屋じゃなかったの?

うん。お客さん来ると、酒盛りしてた。でも酒盛りって言ったって、1年に1回、お正月とかそんなんだったよ。いつもは父が寝てる部屋だったのよ。昔は親子4人で枕を並べてたんだけど、私や弟が抜けちゃって、最後は父だけが寝てて。
あそこの天井も、私が小さい頃に寝てて見上げると、板の模様が、サメの模様だなんだって思ってたわ。その天井が、今は母の部屋の方に来ちゃってるのよね。

家具12 | 四方棚

サイズ:W491×D312×H1392
素材:木, 真鍮
場所:和室

そうそう、これがすっごい埃だったの、電気が。もう全部、房が壊れてるみたいな感じでね。それで、電気の傘の上にも、すごい、30年分の埃が溜まってたの。
赤坂の時に和室2つ、8畳と10畳のとこに付いてたのよね。もう房がボロボロよ、ねぇ。…骨董品だね、ホント。

それでその、掃除してみようって思い立ったんですね。

それはあれよあれ、ダニに刺されたからなの。私はなんか掃除は全然好きじゃないんだけど、寝てるときに、すっごいこと刺されて。アレルギーみたいになっちゃって。それだから、もうああいうのは絶対イヤだと思って、それでインターネットかなんかで見ると、やっぱり埃とか、人間のゴミとか垢とか、分かんないけど髪の毛とか、そういう汚い所があると、ダニが増えるっていう…

当たり前じゃん(笑)

そう?… そうしたら見る目を変えると、なんか埃だらけだったのよウチ。
それで今までは汚くても、一応さっちゃんの責任ってことに精神的にはなってたから。でも、さっちゃん何もしなかったけど、私の責任じゃないよって顔ができたんだけど、それが今度さっちゃんいなくなったらできなくなった(笑)
それもあって掃除しまくって。30年間分の埃だったから。すごい大変だった。

家具14 | 吊り照明

サイズ:φ303×H157+L564
素材:擦りガラス, 絹, 真鍮, 電球, コード
場所:和室

いま自転車が置いてあるところに、ホントは椅子が置いてあったのよ。たぶん2階の応接間にある椅子が2つくらい置いてあったんですよね。それで父がいなくなってから自転車になったのかな、どうしたんだろ。

でもこれ1個しかないよね?

え、2つあるでしょ?

え、2つあるの?どこに?

応接間?

えーと、確か1個は物置きに入ってたような気がする…

物置き?あそうなんだ。1つって事はないのよ。

2つ?

ええ。2つはあったと思う。だって玄関に並べて置いてあったと思うから。

なんで玄関に置いてあったんですか?

座って…知らない(笑)
あんまりそんなの意識したことなかったからね。なんか全部当たり前だったから…
この椅子だっていつ買ったのかも、いつウチに来たのかも分かんないしね。

家具29 | 洋椅子

サイズ:W483×D465×H921, SH415
素材:木
場所:玄関 → 応接間, 物置き

家がみる家の夢の話vol.2_02